1 テナント企業の業種と収益構造
前回のレポートでは、商業エリアの収益特性について、
水平方向(店舗ビルが立地するストリート)と垂直方向(店舗ビルの階層)の組み合わせによる
立体的なポジションという観点で考察しました。
その中で、テナント企業の収益特性の違いとの関係にも少し触れましたが、
今回はこの点をさらに詳しく見ていきます。
テナントの業種は一般的に物販・飲食・サービスの3つに分類されますが、
筆者はテナント企業の収益特性(店舗運営の効率性)という観点から見ると、
それぞれの業種がさらに3つずつぐらいのグループに分かれると考えています。
そして、テナント企業の収益力を特徴づける要素としては、
- 客単価(客1人当りの購入商品単価*購入商品点数)
- 回転率(1時間当りの来店客数または購買客数)
- 営業時間効率(営業時間内における客の来店時間帯の自由度)
- 人件費効率(従業員1人当りの客数または売上)
の4つが重要ととらえています。
これを表にまとめると以下のような形に整理されます。
〇テナント企業の業種別収益特性
まず、物販と一口に言っても商品の種類や価格は実に多種多様ですが、
経産省が行っている「経済センサス」(旧「商業統計調査」)では、
物販(小売)の販売品目に関して「買回品」と「最寄品」という区分で大別しています。
買回品は品質・機能性能・趣味嗜好性・ブランドイメージなどが
販売者・製造者によって大きく異なるタイプの商品で、
消費者は自分の好みの商品を買う目的で特定の店舗に来店します。
これに対して最寄品は一般的な食品や日用品、あるいは雑誌など、
商品自体にあまり差別化する要素がない(どの店舗でも同じもの、同じようなものを売っている)ため、
消費者は最寄の店(近い店、行きやすい店)に来店します。
筆者はこの買回品系・最寄品系の2つに加え、買回品のうち
特に商品のサイズが大きい品目の店舗(家電店や家具店)を分けて大型商品系として3つに区分して考えています。
これらは店舗面積や商品の陳列方法などの点で他の買回品と大きく異なる点が多いからです。
物販の特徴としては、②の回転率と③の営業時間効率が高い業態が多いという点が挙げられます。
いつでも都合がいい時間に来店し、短時間で買い物が済むからです。
①の客単価については、一般に買回品の方が最寄品よりも高く、
数十円単位から数百万円単位まで、3つのグループ間でかなりの幅があります。
よって、④の人件費効率については②と③の高さから物販は基本的には高いと言えますが、
①の客単価が低い業態では必ずしもそうとは言えないケースもあります。
これに対して、飲食店は①の客単価については
ファストフードから高級店まで幅広い水準に分かれますが、
オーダーを受けて商品を提供し、客が食事を終えるまでに一定の時間を要するため、
②の回転率は総じて低い傾向にあると言えます。
また、食事をするタイミングが基本的に朝・昼・夜の特定の時間帯に集中するので、
営業時間が長くても客が多数来店する時間は限られており、
一日全体で見ると③の営業時間効率はどうしても低くなってしまいます。
しかし、飲食店の中でもファストフード系(カフェも含む)では
テイクアウトを併用している業態が多く、テイクアウトは物販と同様に②の回転率が高いので、
この営業時間効率の低さを大幅に補っているため、
テイクアウトがない業態とはかなり特性が異なっています。
また、飲食店は通常、食事中心の店なら昼と夜・飲酒専門の店なら
夜・喫茶店なら朝か昼に客が多いといった感じで、
業態によって商品構成や営業時間効率特性がはっきり分かれていますが、
ファミリーレストラン系はこれらを幅広く取り入れるメニュー構成となっており、
朝・昼・夜のすべての時間帯で異なるニーズを持つ客層の集客を図り、
飲食店の中では③の営業時間効率が比較的高い業態と言え、
これも他の業態とは分けてとらえることにしています。
サービス業については、もともと物販・飲食のいずれでもない業種の総称となっている面もあって
分類が難しいですが、筆者はまず、「何をどのようにサービスする業態か」という観点で、
従業員が店舗内で直接、来店客に対して役務・施術・情報・ノウハウなどを提供する(人がサービスする)業態と、
来店客に物品や著作物の効用を提供する(モノがサービスする)業態に二分しています。
そしてさらに、前者は従業員が来店客にマン・ツー・マンで対応する
「1対1系」(美容・リラクゼーション等)と、
少数の従業員が多数の来店客に同時に対応する「1対多数系」(各種スクール等)に分け、
後者(シネマ、カラオケ、ゲームコーナー等)を「その他のサービス系」として整理しています。
サービス業を3つに区分しましたが、いずれも店内でサービスの提供を受け、
それには一定の時間消費を要するため、②の回転率や③の営業時間効率は、
一般に飲食よりもさらに低い業態が多くなります。
特に「1対1系」の店舗は④の人件費効率も相当に低くなります。
(ただし、客単価が特に高い業態の場合はこの限りではありません。)
2 テナントの収益と賃料
テナント企業の業種の違いによる収益構造の違いを見てきましたが、
ここでもう一つ重要な要素、テナント店舗の「利益率」について考えます。
店舗の収益(売上)は、同じ企業であればどの店舗でも一様に同じ水準というわけではなく、
店舗の所在するエリアの繁華性や入居施設の競争力によってばらつきがあります。
全国に多数の店舗を展開するチェーン企業などでは、売上がすごく高い店舗もあれば低い店舗もあり、
全体としてどれだけ利益をあげることができるかという点が重要となります。
そして、注目すべきなのは、売上が高いエリア(店舗面積当たりの販売効率が高いエリア)の店舗ほど、
売上から費用を差し引いた利益の水準(利益率)は逆に低下してしまうという現象が、
いろいろな業種の企業でみられるということです。
その多くが、店舗の売上と賃料のバランス(賃料負担率)に起因する問題です。
これを模式化・単純化してわかりやすく示したのが以下の図です。
店舗の売上(販売効率)・賃料負担率・利益率の関係を、複数の収益水準が異なるエリアで比較します。
〇テナントの売上水準と利益率
この例では、エリアAからDに向かって店舗の販売効率は上昇していますが、
それに伴って利益率は逆に低下しています。
この利益率は、売上(販売効率)の上昇に伴って売上原価や人件費も増やしていますが、
「粗利率(1-売上原価率)」は一定、人件費の上昇率(増員率)は売上の上昇率よりも小さく設定しています。
つまり、販売効率が高いエリアの店舗は利益率も高くなるはずなのですが、
そうならないのは図中のように、販売効率の上昇につれて賃料負担率も上昇してしまっているからです。
これは、販売効率が高い店舗は通常、賃料水準も高いエリアに立地していることが多く、
エリアの高い賃料水準をベースに固定賃料が設定されていることが主因となっているケースが多いのです。
(ちなみに全店歩率が一定の売歩方式賃料であれば、販売効率が高い店舗ほど利益率も高くなります。)
このような状況が生じる本質的な要因は、エリアの全体的・平均的な販売効率の水準と、
そのエリアに出店したテナント店舗の販売効率の水準や傾向がかい離していることにあるのですが、
この点についてはまた別の機会に考察したいと思います。