「ミシュランガイド」と言えば誰もが一度は聞いたことのある世界を代表するグルメガイドです。そんなミシュランガイドで3つ星を取り続ける「名店」はどんなお店なのか調査したのでご紹介します。
■ミシュランガイドとは?
もとは1889年にフランスで創設された自動車のタイヤメーカー「ミシュラン」が、創設当時、自動車に必要な給油や、付きものだった故障トラブルに対応するため、1900年8月、タイヤに関する知識や駐車場、ガソリンスタンド、自動車整備場の情報をまとめたガイド。また、遠くまでドライブするのに立ち寄れるホテルやレストランの情報をまとめた赤い表紙の冊子、これがミシュランガイドのはじまりでした。
現在、毎年一回12月に刊行され、その影響力は凄まじいものがあります。
■星と評価基準
ミシュランガイドの「評価基準」はどのようなものか、ミシュランの公表によると審査項目は以下の5点のみ。
①素材の質
②調理技術の高さと味付けの完成度
③独創性
④コストパフォーマンス
⑤常に安定した料理全体の一貫性
そして、星の意味は以下のようになっています。
「★」その分野で特においしい料理。
「★★」きわめて美味であり、遠回りをしてでも訪れる価値がある料理。
「★★★」それを味わうために旅行する価値がある卓越した料理。
ミシュランの星を狙いたいのであれば常日頃、料理の美味しさを追求する姿勢、努力、実現力が求められるという訳ですね。
ミシュランガイドで一つ星を獲得すると、売り上げが3割アップすると言われ、「掲載後、予約が取り難くなる」、「行列に何時間も並ばなければ入店できない」という現象が起きることは珍しくないようです。一つ星でこの集客効果ですから、三つ星ともなるとレベルが断然異なりそうですね。どうやら2つ星のお店でも3ヶ月先まで予約でいっぱいで、1つ星のお店でようやく予約できるほどのようです。ミシュランの集客効果は絶大ですね。
■ちなみにミシュラン1~3星獲得数が世界一なのは?
2022年2月現在、「東京」が都市として世界一のミシュラン1~3星獲得数を誇ります。第2位は本家「パリ」、第3位はが「京都」、第4位は「大阪」、第5位は「香港」となっています。
その理由は、ミシュランガイド総責任者ジャン=リュック・ナレが「東京は、世界一の美食の街である」と判断したこと、日本料理の料理人に数世代、数百年かけて伝えられた料理人固有の技術と伝統の継承性が、どの都市よりもレベルが高いと判断したことにあります。特に飲食店の専門性について、一つの店舗で色々な日本食を提供するパリの飲食店とは異なり、「私が行った日本の飲食店はほとんど寿司店、刺し身店、焼鳥店、うどん店など、専門店に細分化されていて非常に印象的だったこと。こうした特性から日本の飲食店の相当数は誰も追いつけない専門性を確保していたため、当然、高い評価につながる」と述べたことが挙げられます。
そんな日本で、2008年のミシュランガイド初刊行から毎年3つ星を持続する「かんだ」が3つ星を取り続ける、食に向き合う姿勢、努力や取り組みをご紹介します。
■「かんだ」日本料理・和食
ミシュラン東京が初めて発刊された2008年度版から3つ星を獲得。今回で13年連続で3つ星を獲得した和食の名店です。
住所:東京都港区元麻布3-6-34
→[移転]東京都港区愛宕1-1-1 虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー1F
元麻布「かんだ」は、「ミシュランガイド東京」刊行以来、14年連続で三ツ星を取り続ける日本を代表する割烹料理店です。店主・神田裕行さんが真摯に取り組む活動があります。
神田さんは2009年、環境に配慮した生産者を支援するクラウドファンディング「Fuudo」を立ち上げ、現在もその理事を務めています。
「今でこそ人間は海洋生物や肉を食べているが、そもそもは土の中から芽を出し、太陽の光を浴び、雨が降って育った植物やその実を食して生きてきました。そのサイクルを持続させるには、何より、たくさんの微生物を含んだ健康な土が必要なのです」とプレゼン。これが多くの賛同を得て、2005年ap bank 食部門の理事を務めることになりました。(※ap bankは、音楽家の小林武史さんと、Mr.Childrenの櫻井和寿さんに、坂本龍一さんを加えた3名が拠出した資金をもとに、2003年に設立され、野外音楽イベントap bank fesの開催や、復興支援活動をする団体)
一番に掲げたのは農薬からの脱却です。日本は世界一の農薬大国なのだとか。高温多湿で害虫被害に遭いやすいことと、農薬は雨で落ちるため大丈夫、という考えがあるためです。ただ、落ちた農薬は土の中へ染み込みます。そのため、土づくりから取り組みます。都内の星付きシェフに声をかけ、日本の農業の根幹、米をテーマに取り組みたいとアイデアを出しました。
神田さんは、日本一の米を求めて新潟に通い、出会ったのが現在も店で使用している南魚沼郡(旧塩沢地域)にある鈴木 清さんのお米だったそうです。鈴木さんの田んぼを訪れたときに、何より印象的だったのが、そこだけ蛍が飛んでいたこと。蛍の幼虫は、最も農薬に弱いためです。土もふかふかで、他の田んぼとは全く違うのに驚いたといいます。
以来10年間、欠かさず鈴木さんの田んぼに田植えに行っているそうです。今では、総勢100人ほどの料理人が田植えを手伝います。農家にとっても心強い戦力です。田植えの際、耕運機で植えられる稲の苗は長さは8cmまでと機械の構造上、決まっているそうです。その長さの苗ではまだ弱く、農薬を撒かないと害虫にやられてしまうため、10cmまで育った苗を手で植えれば、その後の農薬が圧倒的に少なくて済むといいます。だからこそ「かんだ」の大勢による手伝いが心強いのです。
こうした影響力のある料理人が毎年、田植えや稲刈りを手伝うことで、農業継承者が地元へ戻って来るという事も起こっています。
■別の取り組み―養殖技術
日本料理は魚介類に頼るところが大きいです。ところが、天然物の漁獲高が急激に落ちています。「天然=高級」、「養殖=安価」、という認識を変えていかなければならないと言います。そして、星付き店、高級店だからこそ率先して取り組んでいます。生産者の多くは、調理された状態での味を知らないため、やみくもに「おいしいものを作ってくれ」と注文しても伝わりません。両者が知恵を出し合いはじめて、高品質の養殖魚介の完成が見えてくるのです。現に、うなぎや鮎は天然よりも品質の高いものがすでにできていると言います。
「かんだ」という3つ星が目指す「美食」は、奇をてらった表面上のものではなく、しっかりと土に根をおろした、持続可能な食の上に成り立っているのです。
いかがでしたか。ミシュラン3つ星店「かんだ」の「食」への取り組みをご紹介しました。2003年という早くからサステナブル、持続可能という指標を掲げていたことにとても驚きました。やはり3つ星店の料理人ともなると、考え方や目の付け所、食に取り組む姿勢、熱量、影響力、行動力がまるで違うという感銘を受けました。
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