エリアレポート

商業ビルの階層とテナント特性

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1 商業ビルの階層とテナント業種

 

 前回、銀座エリアについてストリート別のテナント特性の違いを明らかにしました。
今回は、ストリートに面する商業ビルの「階層」に着目し、テナント特性の違いを見ていきます。

 前回の銀座エリアのレポートで都心の主要な商業地の地価水準を比較しましたが、
その中で突出して高い水準だった銀座に加え、同じく高水準だった新宿・渋谷、
中間的な水準の表参道(原宿・青山も含む)、比較的低い水準の六本木の5エリアを考察します。

 まず、これら5エリアを合算し、ビルの階層とテナント業種の比率の分布を見てみます。

下図を見ると、業種ごとに異なる分布を示していることがよくわかります。

 物販店舗は、路面(1階)が50%超で特に多く、次いで2階の30%、地価の20%弱となっており、
低層階に比率が高く、3階以上の中高層階は非常に低いことがわかります。

 飲食店舗は地下が約50%で最も多く、次いで路面(1階)~2階が30%弱で中高層階は低め、
サービス店舗は中層階の3~5階が最多で6階以上の高層階の比率も高く、
事務所など店舗以外の比率は高層に行くほど高くなっています。

 

〇商業ビルの階層別テナント業種比率

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出典)㈱ゼン・ランドの保有情報をもとに作成

銀座・新宿・表参道(原宿、青山含む)・渋谷・六本木の各主要ストリートに立地する商業ビルの集計値
※百貨店・ショッピングセンター等の一体運営施設を除く

 低層階は物販店舗と飲食店舗が中心、
中高層階はサービスや店舗以外の事務所などが中心という傾向が明確に出ています。
これは前回、銀座で見たストリート別のテナント分布と同様に、
テナントの業種による収益特性の違いが背景にあります。

 地価が高いストリートに物販のテナントが多いことと、
低層階に物販のテナントが多いことはともに
「不特定多数の客をいかに大量に呼び込むかが勝負」という収益特性に起因しています。

地価が高いストリートは大量の歩行者が絶えず通行していて潜在客のボリュームがたいへん大きく、
そうした不特定の歩行者を呼び込むには店舗や看板の視認性が良く、
店舗に入る際に心理的な負担感が少ない低層階が有利だからです。

 飲食は物販よりも販売効率が低い店舗が多いので、
必ずしも地価が高いストリートに立地しているわけではありませんが、
低層階が有利である点は物販と同様で、
中でも路面(1階)より賃料水準が低い地下の比率が高くなっています。

 これに対してサービスは物販や飲食とは逆の収益特性を持っており、
一般に客の滞在時間が長い(時間消費的要素が強い)ことや、
繰り返し同じ店に来店するリピート客の比率が高いことから、
不特定多数の歩行者量や店舗の視認性は物販や飲食ほど重要ではなく、
賃料が安い中高層階を指向するテナントが多くなるわけです。

事務所に至っては、出入りするのは主に自社の従業員なので、この傾向がさらに強くなっています。

 

2 エリア別の特徴

 

 階層別のテナント業種分布をさらにエリア別に見てみます。
下図は低層階については物販と飲食、中高層階についてはサービスと事務所等の間の偏りを示しています。

 

〇エリア別階層別のテナント業種分布

r2図表2

出典)㈱ゼン・ランドの保有情報をもとに作成

銀座・新宿・表参道(原宿、青山含む)・渋谷・六本木の各主要ストリートに立地する商業ビルの集計値
※百貨店・ショッピングセンター等の一体運営施設を除く

 低層階については、表参道路面(1階)の物販比率が突出しており、70%を超えています。
次いで銀座路面(1階)や新宿路面(1階)など地価水準の高いエリアの路面店が半数を超えており、
表参道(2階)や新宿(2階)もこれらに準ずる比率であり、
極めて大きい潜在客数(歩行者量)を求めて賃料負担力の高い物販店舗が集積していることがうかがえます。

 一方、5エリアの中では地価水準が最も低い六本木の地下や2階は物販比率が10%未満で非常に低く、
飲食中心の分布となっています。

 中高層階については、渋谷のサービス業の多さが目立っており、
3~5階、6~9階、10階以上のいずれの階層でも40%を超えています。
六本木(10階以上)もサービス業が50%近い比率となっています。

 これに対して、表参道の高層階(6階~9階、10階以上)や新宿(10階以上)は
事務所が70%を超える高水準となっており、他のエリアと大きく異なる傾向を示しています。

 このように、階層別のテナント分布はエリアによって傾向が分かれていて、
銀座や新宿は各業種が比較的バランスよく分布している一方で、
表参道では低層階が物販・高層階が事務所等に極端に偏重していたり、
六本木では飲食の比率が特に高いなど、それぞれ個性的な分布を示しています。

 これらのエリアの特徴は、いわばエリア内の水平方向(ストリート)の収益性と
垂直方向(階層)の収益性の掛け算で示される立体的な収益特性によって形作られており、
同じテナント企業の店舗でも、エリアによってどの立体的ポジションに出店すべきかは異なってくるということになります。

 例えば地価が特に高い(歩行者量が特に多い)ストリートでは地下・2階・3階のどれでもよいが、
それ以外のストリートでは路面(1階)での出店が必須であるとか、
渋谷なら3階以上でもよいが表参道では出店NGとか、業種・業態によって、
どのエリアのどの立地(立体的ポジション)に出店を狙っていくべきか、
これをいかに正確で緻密に分析できるかが出店の勝敗を左右する重要なポイントになっています。

 

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